肩甲骨が剥がれない

Twitterの補完版として始めたけれど、自分の備忘録状態。なるべく他人に読んでもらうつもりで書きます。

2022/01/31 映画館最期の日

足蹴よく通ってはいないが、私にとって生まれて初めての映画館ということでそこら辺のシネコンよりは思い入れがある映画館が閉館した。

最終週は名作上映会と銘打って、通常の興行と並行して毎日一作品1000円で上映を行っていた。

たまたま平日の休日がある週だったので、上映開始は夜だったが安く映画が見れる!!と喜び勇んで行ってきた。チケット売場で「ロミジュリ一枚!!」と勢いよく声を出して(なぜならこの時点で上映が始まっていたので)入場。

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ロミジュリは読破したことがなく、かげきしょうじょ!!の劇中劇で大まかなあらすじを知ったというお粗末な予備知識だったが、めちゃくちゃ楽しめた。レオナルド・デカプリオ美しすぎるな。タイタニックも早く見よう。

 

 

 

コロナ禍が始まった当初、運営資金を調達するため発行されたこの映画館独自の観賞券を購入する程度には好意的な思い出がある。テネットもその券で見た*1。当時は平日昼間という時間を差し引いても私ともう一人、二人しか観客がいなかった。しかしいよいよ最後ということでこの日はほぼ満員。上映が始まって5分後に駆け込んだというのもあって前方の席しか空いていなかった。
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上映終了後にチケット売場の写真を撮る。あと数日で閉館ということもあり、さっきまで同じくロミジュリを見ていたであろう人たちが外観やこのチケット売り場を撮影していた。私も倣ってスマホのカメラロールに残すことにする。一人で来た、元カレと来た、友人達と来た、そして記憶に残る中で私の初めての映画館だ。最終日は仕事があるので今日で見納めだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……数日後、私は再び映画館にいた。最終日の上映時間にギリギリ間に合うかもしれない気が付いてしまったのよ。仕事は終わらせたことにしてさっさと帰ってきたのだ。今日は5分前には到着したので今からチケットを買って入場すれば着席と同時に映画が始まるという寸法だ。意気揚々と映画館へと延びる道の角を曲がると、行列。

私と同じように考えている人がけっこういた。そして地元のテレビ局のクルーたちも姿も見える。ほほう、なるほど。明日のニュースのネタにするのかしら。この行列だと確実に時間に間に合わないのでいっそのことフードも買おう。1000円じゃなくなるけれど最後のお布施だと思ってとキャラメルポップコーン(好物)を買う。

ちなみに最後の映画は「ファイト・クラブ」だったのだが私の前に並んでいた人が「呪術廻戦」を買っていた。この映画館を普段使いしている人がいる一方で「最後!」と銘打たないと足を運ばない俺といったら……。

館内は満員御礼だった。普段の上映からこれくらい人が入っていればな…と一瞬複雑になるが席を探すのに一苦労した。親切な人が立ち上がって「どうぞ」と誘導してくれたのでリアル映画館前すみません選手権か!!と心の中で突っ込みながら平身低頭して無事に座ることができた。

omocoro.jp

ブラット・ピットが最高にかっこよかった。相変わらずストーリーというか前情報なしに見たので*2暴力シーンに思わず目をつむってしまった以外は物語に引き込まれ、あっという間にエンドロール。

エンドロール後、ゆっくりと明かりが点灯するとどこからともなく拍手の音が聞こえてきた。拍手はすぐに場内を伝播し、観劇後のスタンディングオベーションに似たグルーヴを感じた。私たちは一つの作品を同じ場所、同じ時間、そして「今この瞬間を以て最後の上映作品が終了した」という情報を共有して鑑賞したのだ。生の舞台を鑑賞したかのような充足に包まれてとても心地いい瞬間だった。

 

席を立って出入口へ向かうと、テレビカメラを担いだカメラマンとマイクを持ったディレクターの二人組が目に入った。おお、これはマイクを向けられて「最後の映画はどんな気持ちで観ましたか?」とか聞くインタビューだ。だがテレビ映えする人を選ぶだろうから仕事終わりで*3ぼさぼさ頭でおばあちゃんが作ったような渋い色の手提げ鞄*4を持った女性にマイクを向けるようなことはしないだろう。と足早にカメラの前を通り過ぎようとした。早くしないと駐車場料金が嵩んでしまう。

 

「ちょっとすみません、少しお時間よろしいですか。」

 

私に声かけるんかい!!!!!!もっと適任そうな人がいるだろう。ほら!いま出てきた女性二人組とか、さっきスタッフさん*5と仲良さそうに話していた人とかさ!!!よりによって………選んでくれて嬉しいけれど!!!(本音)

地方局とはいえマスメディアのインタビューなんて東京国体に北島康介が出場する日に遠征観戦しに行ったらNHKのクルーに声をかけられた時以来だよ!!!!(興奮)*6生まれて初めて映画館で映画を見たのがここだ、というとっておきの話を語ってやろうじゃないか!と(心の中で)腕をまくってカメラの前に立った。

「現在コロナ禍ですが、映画館で映画を見ることに対してどう思いますか?」

「え??え~~そうですね」コロナ禍!?!?え?そっち???「なかなか連れ立って外出できない日々ですが、こうやって大勢の人と一緒に映画を見るというのはやっぱり楽しいですね」要領を得ない回答をしてもディレクターの人が真剣にうなずいて『話を聞いていますよ』と全身でアピールしてくれる。その期待に応えねば!と力が入る私。

「最後の上映をどんな気持ちで見ましたか」

「私にとって初めての映画館だったので、当時のことを思い出しながら(すみません盛りました。当時雨が降っていて、友人達と車のトランクに入って映画館に連れて行ってもらったことしか覚えていません)感慨深い気持ちになりました」

 

文字にしてもひどいが実際は考えながらしゃべるせいでフィラーが出るわ、つっかえまくるわでさんざんたるものだった。上手いこと言おうとしちゃいけないね。解放されたときは一仕事終えたような疲労感も抱えており一刻も早く家に帰りたくなったが、ここまで来たら最後まで見届けてやろうと思って閉館の瞬間まで現場に残ることに。

 

チケッ売り場の前のシャッターのみ開いている状態で(おそらく)幹部社員を従えた支配人がマスク越しに声を張り上げて挨拶をしていた。

熱心なファンではなかったのでスピーチに心は動かされなかったが、一つの時代が終わる瞬間をこの目で見届けたという達成感はあった。

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シャッターが下りていよいよほんとに営業を終えた映画館。名残惜しそうにその場に留まる人々を撮影するカメラマンたち。(写真には見えないけれど私たち側にももう一局いるのだ)再開発でビルごと取り壊されるのでこの風景も見納め。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、期待を込めてニュースを確認。

インタビュー映像は使われませんでした!!!!有象無象のモブとしても使われませんでした!!!初デートで当時の彼女とここに来た。という老齢の男性が映画館の思い出を語っていました。初デートか~~~~~ノスタルジーには勝てないわ~~~~~。

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あまりにも人がたくさんいたので食べきれなかったポップコーン。
3日かけて食べきりました。

ちなみに映画館が入っていたビルは取り壊されますが、別の場所ある姉妹映画館へ名前は引き継がれています。なので完全になくなったわけではない!やったね!ビルのオーナーも再開発後にはミニシアターを作りたいと発言しており、この場所に再び映画の火が灯る可能性がある、という希望を持たせる締め方で終わりたいと思います。

*1:ツイートの写真もチケット売り場の目の前で撮った

*2:翌日職場で最後の上映に行ったという話をした時、普段映画を見ない層の人でも題名を知っていたことに驚いた。そんなに有名作品だったのですね……

*3:邦キチ映子さんに登場するレイトショーを見るモブOLをやつれさせたような恰好でした

*4:実際に田舎に住む遠縁のお婆さんがつくってくれたトートバック。どうせ独りだし貴重品を入れる程度なので一番どうでもいい鞄を持ってきた。

*5:テレビクルーたちと一緒に劇場の支配人や社員さん達も私たちをお出迎えしてくれていた

*6:ちなみに当時は「どこから来ました?」という問いに当時住んでいた県(市ではインパクトに欠けると思って少し盛った)を答え、周囲のどよめきを浴びて調子に乗り「北島選手を見に来た」という答えを引き出したいクルーを無視し、推し選手の話をするという空気の読めない痛いオタクの醜態をさらしてしまった。恥ずか死案件である。