肩甲骨が剥がれない

Twitterの補完版として始めたけれど、自分の備忘録状態。なるべく他人に読んでもらうつもりで書きます。

2022/6/20 相棒S9E8「ボーダーライン」はまだ全編直視できない

2021/6/21 加筆・修正しました。

 

ここのところシーズン9の再放送を見ながら通勤している。

先日も思わず感想を書きなぐった暴発を初めとした名作揃いのシーズンだ。

タイトルにも書いたけれど、相棒鬱回として最高傑作、そして神回としてもベスト10には確実に入る(個人の感想です)「ボーダーライン」もその一つ。

テレビ朝日|相棒season9

あらすじは上記から。

ニコニコ大百科にも(ほぼ)単独記事がある、と言えば放送当時の反響の大きさも分かるだろうか。2010年の作品だが、2022年の現在も通用するんじゃないかな。いや、当時より貧困が身近になっているので心を切り裂かれる人が多いかもしれない。

ボーダーラインは相棒に興味を持った人ならもちろん、相棒という名前を聞いたことがある程度の人も是非とも視聴してほしい作品だ。出来ることならボーダーライン視聴済みの相棒ファン、もしくはボーダーラインを視聴する旨をTwitterなりなんなり書いて、一人で視聴しないでほしい。もし何らかの理由で一人きりで視聴する際は時間も体力も精神的に余裕がある時に見よう!!!!視聴後におもいっきりご自愛できるイベントやアイテムを用意してね!!!!!

もう今日の日記はこれを伝えることが出来れば満足ですわ。そんな訳なので、以下の感想はなるべくネタバレを含めずに書くよ。

 

ちなみにボーダーラインってどれくらいの鬱レベルなの?という質問には、

数年前まではTwitterの相棒ファンたちの間で「初心者にオススメする作品は?」というお遊びがたまに開催された。いくつか作品を上げた後で

 

崖から突き落とす相棒クラスタ

「ボーダーライン」

 

というオチを書いて「ボーダーラインは本気でダメだ」「おいやめろ」「人間性を疑われるぞ」と本編を思い出してお通夜になる程度には相棒ファン、そして世間的には重苦しい作品だ。

 

というエピソードを紹介したい。

 

閑話休題

そんなわけで、再放送を録画→DVDに焼いたものを通勤中のBGMに流す、というルーティンをしている私でさえ、数週間ほど寝かせていた。開始10秒くらいの柴田の死体が発見される冒頭のシーンを見ただけで「うわー!!!!ボーダーラインだーーー!!やめてやめてやめて!!今はそんな気分じゃないのよ!!!」と再生停止ボタンを押して鬱気分を払拭するために匿名ラジオを再生する。という行動をしていた。

 

満を持して先ほど視聴したが、古物商のシーンから今後の展開を思い出して(リアルタイム視聴を含めるとなんだかんだ2~3回は見ているんだ)これ以上再生すると運転に支障をきたすレベルで精神がやられる!と判断してラストシーンまで早送りした。

 

誰もが少しずつ悪い。いや違うな。誰もが自分の利益、己の待遇のみ省みた結果の事件だ。言い方を変えれば、誰も悪くない。お兄さんや区役所の職員やレンタルコンテナの社員、パン屋の店員。だれも自分の仕事を全うしている。柴田もそうだ。誰もが自分が今日生きるだけで精一杯。右京さんが「手をさしのべる勇気がなかった。」と発言しているけれど、柴田が完全なる被害者だけでなく、この社会を構成する全員の勇気がなかったんだろうな。

そして、一度崩れた階段は二度と再建されずガラガラと足元から崩れていく恐ろしさ。その階段が崩れ去るまでの展開が丁寧に丁寧に描かれている。脚本の櫻井さん、橋本一監督の手腕が最高。相棒ワールドというフィクションの世界のお話だが、柴田が直面した負の連鎖が、われわれが生きる現実世界にも確実に起こっている。放送当時、派遣切りや雇い止めから貧困スパイラルに陥る社会問題が話題になっていた。もしかしたら明日の柴田は同僚か隣人か兄弟か友人か、自分かもしれない。

世間を賑わせた反響はそれだけ共感を得られたということだが(2011年貧困ジャーナリズム賞を受賞している)その共感はユートピアの方向とは真逆だ。今作は徹底して勧善懲悪や希望を持たせる展開、スカッとするラストシーンはない。だれもが柴田になり得るし、誰もが柴田に対するイベント会社社長や区役所職員やパン屋の店員など、本人は悪気は全くなく、ただ自分の仕事を全うした結果の言動をとる人になり得る。そういう現実、すぐそこにある私たちが生きる社会を下手に理想化せずにドラマ作品として放送する相棒製作陣の気概が感じられるんです。今までは相棒を構成する一端だった「社会派」といったジャンルを「天才と秀才」の神戸期だから全力で描ける!と英断し、その期待に全力で応えたスタッフとキャストの矜持が感じられて素晴らしい。

そして「ボーダーライン」を作成し放送できたのは、10年間ひたすら相棒ワールドを拡張し続けた下地があったからこそで。そう考えると、亀山君から神戸くんにバトンタッチした集大成の一つなんじゃないかなと思うんです。この成功があったから、神戸くんの卒業後も相棒が続いていく選択が生まれたのでは???そう思い上がってしまうほど大好きで、でも直視することは相当の勇気が必要な作品です。

 

 

【相棒9】「ボーダーライン」はなぜ“カルト的人気”を放つか~悪の中心なき「散在」的実存論 : tame lab!!!

私が言いたいことすべてをまとめている素晴らしい文章。ネタバレがっつりですが一読の価値あり。それにしても上記でもニコニコ大百科について言及されていて、ネット上で単独記事ができるということはある種の指標なんだな、と。