肩甲骨が剥がれない

Twitterの補完版として始めたけれど、自分の備忘録状態。なるべく他人に読んでもらうつもりで書きます。

相棒S9E4「過渡期」E6「暴発」についてちょっと語らせてくれ

再放送で何度目だ?という視聴!!!!ですが!!!巨大な感情が膨れ上がったので書き散らすよ!!!*1正直未見の方には是非とも視聴してもらいたいけれど、思いっきりネタバレしているからな!!それは止められないぜ!!!!!

 

「過渡期」

時効が撤廃されるニュースはリアルタイムで視聴していた記憶。

世界を放浪していた立松という男がホテルの非常階段から転落死した。立松の祖母は15年前に殺害されており、時効撤廃がなければ2、3日後には時効が成立していた。海外にいた立松は時効撤廃を知らずに、時効に合わせて帰国した可能性もある。右京(水谷豊)と尊(及川光博)はいまだに事件を捜査している総務課の猪瀬(螢雪次朗)から話を聞く。が、鑑識係の丸山(新井康弘)ともども歯切れが悪い。その後、特命係にやってきた猪瀬は、立松から時効について聞かれたことを明らかにする。事件を執拗に追い続けた猪瀬は苦い過去を抱えているらしい…。その過去とは?立松の狙いは?右京と尊が15年前から転落死へと絡み合う謎をひも解いていく。

テレビ朝日|相棒season9

社会派エンターテイメントとして相棒を紹介されるときにあるあるとしてその時のタイムリーな事件や法律が適用されたり、放送直後に似たような事件が報道されたりっていうのがある。今回も2010年4月に改正された「公訴時効の廃止」が重要なテーマとなっている*2が、今回はこの話じゃない。

 

右京さんキレッキレ~~~~~~!!!!!!(満面の笑み)

暴発でも書くけれど「杉下右京の暴走した正義」が「神戸尊という相棒によって加速した」回かなと。決して神戸君がけしかけているというわけではなく、

  • 二人がけんかせず協力して事件の真相へたどり着くというコンビネーションの美しさ
  • 殺人犯が絶対悪ではない。登場人物全員どこかしら悪の部分があった*3。という人間の醜い部分が描かれてやるせなさが心地いい。
  • 体裁を重んじる組織や暗黙の了解に遠慮なく踏み込んでいく警視庁特命係という存在。
  • 法改正により世の中が明るい方へと進んでいく(少なくとも犯人が逮捕されていない被害者遺族にとっては一筋の光なのではないか)ことを期待する風潮の中、「時効」の存在によって自らの犯罪が明るみに出ることを恐れた犯人によって引き起こされた犯罪というダークさを全国ネットでゴールデンタイムで放送する相棒。
  • オチが付いている。冒頭の倉庫整理の伏線が回収されてすっきりするね。

以上4つのポイントが見事な調和を引き起こして1時間の作品に仕上がっているんですよ。一見すると「鬱回かよ」という要点だけれど、全く飽きずに我々を相棒ワールドの世界に浸らせてくれるのが杉下右京と神戸尊という相棒のコンビネーションが見事なんですね。S9という神戸君円熟期なので息の合った掛け合いはもちろん、

右京「散歩コースの途中でたまたま立ち止まった場所が警察署の前でしたか」

尊「こういう言い方をする人なんです。悪気はないんですよ。」

右京さんの遠慮のない度ストレートな質問にフォローを入れる神戸だったり

 

尊「警視総監賞の副賞って普通メダルとかでは?」

丸山「ええ、でもうちは昔から署長のポケットマネーからこういう記念品を付けてくれるんです」

右京「そういうことをしてくれる署、よくあるそうですね」

尊「でもそういうのってほとんどポケットマネーでなくて署にプールしてあるお金って聞きますけれど」

丸山咳払い

右京「善意のポケットマネーだと思いますよ」

尊「なるほど、勉強になります」

丸山「昔は銀の腕時計だったんですが、これも経費削減の一環ですかね」

右京「おや、今経費と認めてしまいましたね」

神戸が言いがかりをつける→右京さんがフォロー。という珍しい構図を見ることができたり。ちなみにこのやりとりを「痴話げんか」と称している人がいて、この人のセンス、好きだわ~~。

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リンクが文字化けしているけれど怖くないよ。

亀山期・神戸期の感想サイトとしては最高峰だと思っているHPです。初期からイタミンの魅力に気づいて発信していた稀有なお方だ。願わくばカイト期・冠城期も更新して欲しい!が、情熱が覚めているようなので、残念。

 

閑話休題

ちなみに訓練された相棒ファンだと「右京さんが神戸君の発言をフォローするだなんて、これは劇団特命の公演では????」といぶかんでしまうんだけれどあまり本筋と関係なかった。

なにはともあれ、こういう心温まるシーンが挟まれているので社会的テーマといいつつもサクサク見届けることが出来るんですよね。そして全員悪の部分があったと書いたけれど(15年前の事件は別として)今回の事件に関しては犯人にも同情の余地がある……いや、やっぱりないな。と思わせる脚本が素晴らしいよね。

「刑事の執念」というと聞こえはいいけれど、事件に取りつかれてしまった警察官が証拠品を横領し、事件の真犯人を衝動的に(聴取はまだなのに気持ちが先走った)殺してしまうだなんて。

クライマックスの屋上にて。「あなたは警察官でしょ!」となじる神戸君は優しいな。右京さんは事件の真相にたどり着いた瞬間から猪瀬を「罪を犯した警察官」ではなく「犯人」として扱っていたんだと考えると恐ろしい。人の心があるのか?(言い過ぎ)そういうヒリついた右京さんの感覚を比較的マイルドにいただけるのがこの「過渡期」という作品なので、本質の槍で相手を滅多打ちにする右京さんを「いけーーーー!!やれやれーーーー!!フウウウウウウ!!!!」と盛り上げることができる初心者向けの作品となっております!!!!!!!

 

 

 

「暴発」

右京さんの正義が暴走しているやん~~~~~~!!!!!(満面の笑み)

神戸尊が3でもなく4でもなく2代目で本当に良かった

 

あらすじはこちらから

テレビ朝日|相棒season9

名作と名高い暴発。

暴力団関係を担当する組織犯罪対策部、殺人など凶悪犯罪を担当する刑事部厚生労働省の外局の麻薬取締部、そして警視庁の例によって人手が余っている(つまりは暇)特命係。

暴力団事務所で射殺された死体。銃の暴発か、未失の故意か、自殺ほう助か、明確な殺意があったのか。大義のために事件の結末を捻じ曲げるといった単純な話ではない。まさに四者五様の思惑が絡み合う作品。

暴力団事務所を2カ月前から内偵していた組対5課。尾行や麻薬取引の証拠となる映像をカメラで撮影し、ついに大捕り物で逮捕!しかし事務所から射殺したいが出てきた!刑事部捜査一課が出しゃばって来るも組員は完全黙秘。そしたら今度は麻取がやってきて「俺たちは1年前から捜査していましたけれど???一斉摘発のタイミングを見計らっていたなのにあんたら勝手に逮捕してなにしているんですか??」と煽られ捜査の主導権を握られてしまう。麻取の取り調べで「あれは銃の暴発」と口をそろえ始めた組員。そうこうしているうちに特命が独自に死体の身元を調べた結果、彼は麻取の潜入捜査官、そして銃を撃った犯人は麻取の協力者、ということが判明。

え???じゃあ、あの人は組員じゃなくて薬剤師の資格を持つ厚生労働省の外局職員???そして協力者は組員だけれど、組織の情報を漏らして一斉摘発の片棒を担いだって分かったら、お礼参りの標的にされて危険なんじゃない???そもそも潜入捜査官ってことがばれたら潜入捜査の意味なくない???現行法では彼を守れない。麻取の捜査を協力した暴力団構成員のために法改正をするの?????よしんば法改正って今日の昼ご飯を決めるみたいに簡単にホイホイ変えられないよ???

 

ある程度社会の組織に身を置いた人や社会の一端に触れた人なら気持ちは分かってくれると思うけれど、この最適解ってやっぱり「暴発」がトゥルーエンドだと思うんですよ。暴力団が麻薬取引していた。それとは別に組の銃が暴発して組員が亡くなった。それでいいじゃない。麻取は1年の調査が無駄にならずに済み、組対は麻取から得た情報で麻薬の入手ルート等を知ることができた。捜一は真実を知るものの黙っている代償として組対への大きな貸しを作ることができた。三方向全て丸く収まった。それでいいじゃない。誰も法の目をすり抜けることはなく、罪を償い、裁かれるんだから。*4

 

独り、右京さんの事件の真相は違う。潜入捜査官鎌田の自殺。協力者後藤は自殺ほう助。しかしその真相はかかわった人の多さや時間や労力を考えるとあまりにも採算が取れない。そしてよしんば送検できたとしても後藤の身の安全の保障は出来ない。協力者を守ることがせめてもの、そして今後も似たような事件を捜査していく上での麻取の信念だとしたら、鎌田の自死は無駄になったというのだろうか。暴力団員の協力者を守るために、命がけの捜査を続けた鎌田の努力は無駄になったのだろうか。すいません、後半から筆が乗ってしまい感傷的な私の心境を書いてしまった。どちらかというと、神戸君がこの気持ちに近いんじゃないかなと思う。神戸君は右京さんの信念に一定の理解は示しつつも、組織人としてめちゃくちゃに優秀なので右京さんが事件を諦めるよう根回しとカメラの映像テータを消す。

 

単純に右京さんは「正しい罪で裁かれるべきだ」「協力者を守る法律がないなら改正してしまえばいい」「しかしそれは今回の事件とは別の話だ」というスタンスなんだよね。そりゃ、神戸君も呆れるよ。呆れるけれど、なんとかして右京さんの暴発を止めようと裏で動く動く。*5一方で「捜査官の命を立たせるような捜査は間違っています」という発言をしているので、ああ、この人の根底にはやっぱり「どんな理由があろうと人を殺してはいけない」という聖典があるんだ。と改めて実感した。きっかけになったとはいえ、人質籠城事件が右京さんの現在の人格形成に大きな影を及ぼしている。くぅぅぅぅ~~~底なしに深いな!!!

 

花の里で「すみませんでした。でも僕は自分のしたことを間違っているとは思えません」と謝りつつも自分の信念を曲げない発言をする神戸君に「罪を償うためには間違った罪ではなく本当に自分が犯した罪で償うべきだ」と言い返す右京さん。け、決裂~~~!!!神の憂鬱の片鱗をうかがわせるラストですよね。

 

後半は神戸君のフォローが生きて、2代目相棒として素晴らしい活躍だった。訓練された相棒ファンの中では周知のとおり、亀山君だとここまでの判断は出来なかった。あの人は良くも悪くも右京さん絶対信じるマンだから。神戸君が2代目で本当に良かったと思う。作品のレパートリーが増え、文字通り相棒ワールドの世界が広がった。

杉下右京の正義は暴走する。その暴走した正義を歴代相棒たちがどうやって受け止めたのか、そして右京さんから何を学んだのか。その過程がめちゃくちゃ面白いから20年以上もシリーズが続いているのかもしれないな、と思いました。

 

*1:冠城君の思い出回とかカイト期の再放送感想文が下書きに溜まっているけれどそれはそれこれはこれ

*2:法務省のこのページが学級新聞みたいなタイトルフォントでノスタルジーでした。当時冠城君は何していたんだろ。あ、本多の超法的措置のあれに関わっていたのか。法務省だより あかれんが Vol.31 1/7

*3:唯一町内会の上田さんは終始いい人だったな

*4:大使館の領事は別として

*5:冠城君を彷彿とさせるけれど、冠城君なら法改正に賛成しつつ、法の抜け道を探して限りなく右京さんのスタンスに合わせそうだな。怖